小説「暗号ヘッジホッグシャドウ」

ヘッジホッグシャドウ ノースフェイス




ヘッジホッグシャドウ?忍びの暗号だな

東大寺の市場に貼り出されていた、ノースフェイスの新シューズ名を見て、

即座に島左近は見破った。


ヘッジホッグ=ハリネズミ、シャドウ=影。

ハリネズミは、決して自分からは攻撃しないくせに、

いざ外敵に襲われた時には、身体のトゲ(体毛が硬化したもの)を逆立て、自分の身を守る。

影とは、正体を隠しながら密命を果たす忍びそのものではないか。





ヘッジホッグシャドウの初販売をするので、

5月28日・辰の下刻に、東大寺二月堂にご参集されたし、と宣伝されている。


これは、忍びが連絡を取り合うための暗号に違いない

そう確信した島左近は、筒井家の将として、

害を及ぼす忍びを根絶しようと、包囲網を敷くことにした。


当日、東大寺二月堂には、ノースフェイスの商人の姿があった。

この場所で売ることを誰かに頼まれたのだろう、

商人自体は忍びではない、と島左近は見抜いていた。


安定したホールド感・軽量性・防水性に優れ、RUNはもちろん、軽登山までの耐久性があり、

町中でも履けるデザインを備えた
ノースフェイスのシューズ・ヘッジホッグシャドウ

初売りされると聞いて、十数人ほどの列ができている。

客のサイズを図っては販売しているノースフェイスの商人も忙しい。



様子を見ようと、島左近は配下を周囲に配置させたまま、自ら列に並んで、

ヘッジホッグシャドウのカラーをチェックする。

ブルー・イエロー・レッドと、定番のブラックだけではないカラーが充実。

手に取ると、ヘッジホッグのトゲのように、

土砂から足を守ってくれる薄い鎧をまとったようなヘッジホッグシャドウ。


町民姿に変装し、平和ボケした顔をしてヘッジホッグシャドウを試す島左近だったが、

一方で油断なく周囲に視線を配っている。

ふと、商品棚にひとつだけ、
異様に大きな10インチサイズの箱があることに気が付いていた。

そんなサイズ、大足の相撲取りでもなければ、試し履きする客もいない。



あれだ、あの箱の中に密書が入っている

他に異常な点がないことを確認すると、島左近は買物の列を離れる。

しばらく遠目から観察していると、幾度か普通サイズで試し履きをしていた男が、

その10インチサイズを指定して、テストもせずに買った。


島左近が合図をすると、あらかじめ用意していた通り、

配下たちは東大寺二月堂から降りて行く道へと散っていく。

裕福な商人風のその男は、ノースフェイスの買い物袋を持ち、

東大寺大仏殿の方向へと石段を下りて行った。


尾行する島左近に気付いているのか、気付いていないのか、

その男は途中の茶屋で一服し、鹿の頭を撫でて、また歩き始める。

不審な動きをするわけでもないが、
相手が忍びであれば、そもそも簡単に見破れる筈もない


油断を見せないのも島左近とて同じ。

東大寺大仏殿の手前で、先周りさせた配下たちと
一網打尽にする手筈は整っている





ふと、男は石段で遊んでいた童子たちに話しかける。

COOLなノースフェイスの買い物袋に興味を持ったのか、中身を見せて、と童子にねだられ、

男は箱を開けてヘッジホッグシャドウを童子に見せる。


わぁー、奈良の大仏様が履くほど大きいシューズ!」と童子が騒ぎ、

「履いてもいい?」とヘッジホッグシャドウを手に取ろうとする。

男もさすがに迷惑そうな表情をして、「ダメだよ、返しな」と言い、

童子の手を撥ね退けた時、ヘッジホッグシャドウが地面に落ちてしまった。


さすがに言葉を荒げ、男が膝をついてヘッジホッグシャドウを拾った瞬間、

いつの間にか草鞋を脱ぎ棄てていた男は、

目にも止まらないスピードでヘッジホッグシャドウを履き

BOAシステムをカリカリと巻いて、サイズを調整した。



しまった!油断した!その影のハリネズミを捕らえよ!

童子たちが呆気にとられている間にも、影のハリネズミは走り出している。

まずい、卓越した忍びの脚力に、ヘッジホッグシャドウの高性能が重なっては、

到底追いつけるものではない。


周囲から飛び出してきた島左近の配下たちが、影のハリネズミを包囲しようとする。

だが、
ヘッジホッグシャドウを履いた影のハリネズミは忍びのスピード

平地ならまだしも、丘や悪地を走られては、ヘッジホッグシャドウの性能に叶うべくもない。





影のハリネズミは春日大社の方角へと、旋風のように走り去って行った。

しばらくの後、配下たちが影のハリネズミの姿を見失った頃、

残されたヘッジホッグシャドウの空き箱に

手掛かりがないことを確認した島左近は、こう呟いていた。


あのヘッジホッグシャドウのシューズ自体に、密書が縫い込まれていたのだろう

我が筒井家も、再び忍びに狙われる時期が来たのか。

松永久秀との争いに勝ち、ようやく我が殿・筒井順慶も大和を統一できたばかりだと言うのに。


尻尾は掴めなかったが、影のハリネズミのような抜け目のない忍びが現れた以上、

次なる戦乱は避けがたい。

敵は松永久秀の残党か、雑賀衆か。

それとも、今は表向きの講和を結んでいる、あの織田信長なのだろうか。


ヘッジホッグシャドウのように高性能で固い守りで、この大和の地を治め続けたいものだな。



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