小説「変身願望の女」3話

未知の世界




それから私の冒険が始まった。

今まで自分一人じゃできなかったこと、できないと思い込んでいたことに挑戦する冒険の旅なの。

あえて苦手分野に自分を追い込むなんて、

ドSの自分と、ドMの自分を両方演じなくちゃいけないから大変よ。


一日ひとつづつ、目標をつくって実行しようと思った。

平日は些細なことから。

一日一冊本を読むとか、映画を一本見るとか。


冒険最初の週末は、見知らぬところに一人旅をすることにした。

早朝から車を走らせて、伊勢神宮に向かう私。

全然行ったことないところだよ、やっぱり神様とお話するのが好きだから、私。

日本で一番有名な神宮に行きたいって、すごく自然な願望。


おかげ横丁を歩いて、内宮へと向かう。

他のみんなは家族やグループで歩いているのに、私はひとりぼっち。

今回の目的は、別に孤独に酔いしれることじゃないから、

私は伊勢神宮のキレイなものを探す。

深い森に包まれた伊勢神宮、巨木がキレイ。

それから、庭園がキレイ。

神宮らしく、紙垂と砂利がキレイなのよ。

私は夢中になって、キレイなものを探しては、カメラに収めていた。

いつの間にか、雑念が消え去って、私は伊勢の神様との会話に入る。





「あのね、伊勢の神宮さま。あなたがこんなに人気者なのは何故?」

「それから、キレイなものを一杯お持ちだけど、どうして?」


あれだけ有名な伊勢神宮なのに、シンプルっていうか、簡素・質素な作り。

そのくせ、次から次へと人々が参拝していき、景色にキレイなものがある。

これ全部が何だろう、って私には謎々のよう。


「飾らず、ありのままのあなただから、人気者ってこと?」

「キレイなものをみんなに見せることが、あなたの喜び?」


その次の週末は、ライブに行ってみようと思った。

映画館にあったフリーペーパーを読んでいたら、

「いきものがかり」っていうミュージシャンが神戸でライブするってあったから、

私は勇気を振り絞ろうと思った。

それまで全然興味なかったのよ、ライブなんて。

だけど、関心がなかったものに、あえて冒険してみるのが今の私だから、

すぐにチケット確保に走っていた。


もうびっくり。

ライブ開始前はみんな席に座っていたのに、ミュージシャンたちが出てきたら、

一斉に立ち上がって大盛り上がり。

どこで立つとか、座るとか全然分からなかったし、

手を振るタイミングもちょっとついていけなかったし。


でも強烈だったのは、いきものがかりさんの楽曲のメッセージ性。

「夢見台」を演奏してくれたんだけど、歌詞に引き込まれていたよ、私。

「変わらず歩ける」って、最初の言葉でドキッ、っとしたもん。

「失くした自分の行方を探してる」「失敗していい」っていう言葉が

胸に突き刺さるようでした。


あまりにインパクトが強かったから、翌日はCD屋さんで

いきものがかりさんのCDを買いこんでみた。

ライブで聴いた「夢見台」の歌詞をじっくり読んで、やっぱりこの曲って、

私のことを歌っているんだ?って思ったぐらいだよ。


それから、「なくもんか」という曲の、

「ひょっとしたら皆ひとりぼっちで歩いているんじゃないかな」という歌詞に、また驚き。

曲の最初から、そんな疑問投げかけられたら、私泣きながら頷いちゃう。

「失敗も裏切りも嫌なニュースも、ごちゃまぜに胸ふさいで見えないふりしたってさ、

そりゃ生きていけるけど、でも僕はまだ逃げたくはないんだ」


ドキッ、としてばっかり。

私の応援ソングができたって、すごく嬉しかった。

こんな出逢いもあるのね、って何度も歌詞カードを読み返しては、

自分のことに当てはめて考えてみると、なんだか示唆的なことばかり。

一曲一曲、よく噛み締めて、自分の生きる糧に、自分のモノにしてしまおう。


ライブっていう未知の世界に飛び込んだら、

こんなに新しいものが私の目の前に開けた感じ。



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