小説「変身願望の女」4話

自分の殻を破る




翌週は、またすごいハードル。

今までの私では絶対に行かないところへ、行こうと思った。

キャバクラと、おかまバー。

無知の私の社会勉強になるはずだから。

こればかりは一人じゃムリだし、

幼馴染の男友達に無理矢理お願いして、付き合ってもらうことにした。


何故、女の人がキャバクラに来たの?っていう目で見られるのが新鮮。

客引きの方を避けながら、コソコソとキャバクラに入って行くと、

いるいる、男も女もたくさんの人たち。

男友達は割と堂々としたけど、キレイなドレスを着たコに横に座られても、

私はそれこそ居場所がなくて、彼女たちのお化粧や身に付けているものに目がいってしまう。


周りを観察していると、興味深い光景ばかり。

若い男のコが、わざわざお金を出してまでこういうお店に来ているのが分からなかった。

普通に彼女とかいるんじゃないの?

もっとおじさんばっかりが来るのがキャバクラだと思っていたから。

男の人たちは、着飾ったコを前にして、ご機嫌でお酒飲んでいる。

女の子たちは、当たり前だけど、あまり楽しそうにしてはいなさそうだった。


そっと隣のコに耳打ちしてみる。

「女性のお客さんって来ることあるの?」

すると彼女は案外普通な表情で、こう言い返すんだもん。

「いますよ〜。ウチのナンバーワンのファンの女性とかいますし、

女性が好きな女性の方も来ますし〜。ここは、なんでもありですね」


キャバクラを出ると、なんだか男友達はちょっと顔が引きつり気味。

だって次はおかまバーのハシゴだもん。

嫌がる男友達を引っ張って、未知の門をくぐる、女勇者・美香。


おかまバーはまた様子が違った。

やけにハイテンションで、人なつっこく話しかけてくる店員さんばかり。

やっぱり私は彼ら彼女らのお化粧とか、お洋服、それと身体つきをジロジロ見ちゃった。

男友達なんて最初はビクビクしていたけど、会話が普通に楽しいから、

自然とお酒の量も増えてくる。


性別って何なんだろうね。

生まれながらのこの大別に、左右されるものは多い。

幅広い人たちが楽しむことができるキャバクラだけど、

そこで働いていた女性たちの目は虚ろだと感じた。

限定された場所のおかまバーでは、自分をさらけ出して活き活きとした店員さんがいたもん。


やっぱり私はおかまバーの人に耳打ちしてみる。

「ここはみなさん、楽しそうにしていますね」

すると、ちょっと表情を曇らせて、こう返事されたよ。

「そうだけど。来てくれるお客さんが少なくて寂しいのよ」


ますます考えさせられる。

いつも寂しいから、来てくれたお客さんとは楽しく過ごそうとしているのかしら。

さっきのキャバクラでは、お客さんが来てくれるのが普通だから、

一期一会という意識がどこかで薄れているのかもしれない。


いいえ、私もそうね。

遠距離恋愛でも大切な人がいることがどれだけ幸せなのかって、

いつの間にかそんな基本的なことを忘れそうになっていたのかな。


キャバクラとおかまバーのはしご。

色々な人たちがいる、と感じた一夜になった。





そんな冒険が大好物になって、私は毎週のように新しいことを繰り返していた。

河川敷のゴミ拾いボランティアに参加したり、

夏祭りの焼きそば屋台でバイトしたり、習い事でジャズダンスをやったり。


色々な人とお話したな。

滅多にないチャンスだからって、私はいつも初対面の人に相談してばっかり。

ケンとの遠距離のことをお話して、どう思うかって、みんなから言葉をもらっていた。

年長者からは、私が諭されてばっかりだったな。

そのぐらい我慢できないでどうするの、って。


自分の殻を破ることばっかりしていたら、自分になかった考え方がいっぱい集まった。

心に響く言葉のコレクションも進んでいたし、小さな幸せも感じられた。

なにより、笑うことが多くなったと思うよ。

それと、度胸がついたかな。

入ったことのない店にも、一人で入れるぐらいに、なんかポジティブな自分になったと思うもん。



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