小説「夏侯覇仲権」7話

高順 陥陣営




決定的な勝機を悟り、高順と「陥陣営」がその後ろから雪崩れ込んできた。

怒涛の突撃を受けて、夏侯惇軍は崩れる。

執拗な高順軍の追撃によって無惨な敗北を重ねてしまい、夏侯惇軍は小沛城から遠く退いた。

高順は夏侯惇軍を壊滅させるや否や、軍を返して小沛城の前に陣取っていた劉備軍に当たった。

勝ち戦の勢いがあるうえに、呂布と張遼も合流したから堪らない。

劉備軍は完膚なきまで叩きのめされ、散り散りになった。

分が悪いと見たのか、小沛城に残っていた兵も降伏する。


こうして曹操軍先発隊は使命を果たせず、最悪の結果に終わったのだった。

呂布が小沛城を手中に収めた頃、

夏侯惇軍は州はずれの小城に入って、曹操本隊の到着を待っていた。

あれから仲権は泣きはらしていた。

惇伯父の油断を招いたのは自分だと、人目を憚らずに大泣きした。

惇や淵の前で何度も懺悔しては罪を請うた。

しかし、惇も淵も仲権を相手にせず、適当に慰めるだけだった。

仲権のせいかもしれないが、仲権のせいだけではないからだ。

詫びて許されるものでないと分かっていても、仲権は謝り続けた。

毎日床に来て酷く涙を流す仲権を見て、いくらか面倒臭そうに惇は言う。

「わしは己の役を果たしたまでだ、勝敗は平家の常、気にするな」と。

だが、それを聞いた仲権はますます己を責めるのだった。

子雲は、そんな仲権に対して責めもせず、かと言って慰めもしないのだった。

それがまた、仲権の心を苦しめた。

大人の二人がはっきり言わなくとも、子雲だけにははっきり責められたほうが気は楽になっただろう。

しかし、子雲までもが何も言わないのだった。


惇が高順を追ったとき、仲権は高順を逃がさないようにするために

己の身を餌にして突進したつもりだった。

まだまだ子供である自分から逃げては「陥陣営」の名折れだと、

高順が逃げるのを躊躇するのかと思ったのだ。

しかし、高順はあくまで冷静だった。

逆に己の勝手な行動が惇のいらぬ注意を引いてしまい、左目を奪ってしまう結果になった。

片目を失うとは戦場に生きる将軍としては大きな損失である。

その重さを受け止めることができるほど、仲権は成人していなかった。





間もなく曹操本隊が合流した。

出迎えもできない状態の夏侯惇を心配して、曹操は夏侯惇を病床まで見舞った。

「元譲。どうした、お前らしくもない。やはり高順は強かったか」

曹操が笑いながらおどけてみせると、夏侯惇は苦虫を噛み殺したような顔になってそっぽを向いた。

今度は曹操が真面目な顔になって言う。

「――しかしな、元譲。片目を失ったからといって腐るなよ。

よいか、ひとつの感覚が失われたことで、他の感覚が鋭くなる。新たな才能を開花させてみよ!」

「言われなくとも分かっているぞ、孟徳!少し油断したわ!

次は高順に呂布も合わせて討ち取ってやる!!」

「そうはいかぬ。元譲、まずは許都に戻って養生に専念せよ。

冀州の袁紹を討つにはお前が必要だ。それまでには万全の体調にしておけ!」

曹操は強い口調でそう言い残すと、部屋を出た。

すると廊下に平伏している者がいた。仲権である。

「私の不注意で、夏侯惇将軍に重傷を負わせてしまいました!

私の罪は万死に値します。どうぞ私に罪を申し付け下さい!」

曹操は鼻先で笑った。

「乳臭児!下らぬことを申すな!

よいか、そんな小手先のことだけに囚われず全体の目的を把握して行動せよ。

貴様の責務はそんなことではないぞ!」

そう言い残すと、曹操はずかずかと歩き去っていった。

(……責務。責務と言った。僕の責務とは何だ)

分からなかった。仲権には新しい悩みが増えた。

間もなく惇は許都に戻った。淵は子雲と仲権を留めて曹操本隊に従った。



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