小説「狂い咲き」6話

浄楽寺 運慶 不動明王




夏は終わっていった。

少しずつ涼しくなる夜風を感じると、次の季節のことを心待ちに、私は毎日を過ごすようになる。

あぁ、秋になると、なんだかケンに再会しているような気持ちになるのが、私、嬉しいのかな。

でも、もう彼のことは思い出さなくてもよいでしょ、と自分に言い聞かせてみる。


不動明王の取材は続いていた。

今度は少し遠出をして、横須賀の浄楽寺まで、不動明王に逢いに行った。

年に2回しか開帳されない秘仏、これもまた、あの運慶が創った不動明王。


私が出逢った不動明王は、最初が伊豆の願成就院、運慶の斬新な作品。

それから京都や奈良のお寺で、数多くのクラシックな不動明王を拝見させてもらった。

この前の東寺で、不動明王の時代を遡る旅は終わり。

次はもう一度斬新な不動明王を、と運慶の作品を求めて横須賀の浄楽寺まで行こうと思った。





今まで逢ってきたどの不動明王も素敵だったけど、

運慶が創った浄楽寺の不動明王は、やはり私の心にすっと入ってきた。


武士から求められて創られ、その武士たちに愛された運慶の不動明王、

肉体や表情から溢れるのは、機智と覇気よ。

玉眼という運慶流の手法は、現代人の私が見ても違和感がない。

こんなにリアルな不動明王、武士たちが信仰の対象としたものは分かる。


和田義盛という鎌倉武士に依頼されて、運慶が創ったこの浄楽寺の不動明王。

仕事で創ったものが、依頼主に感謝され、多くの時間の中で

多くの人たちに感謝され、今でも私のような人が訪れては、巡り合いに感謝している。





口下手な私も、記事にならば素直なことが書ける。

今回の記事のテーマは、周囲の人たちへの感謝の言葉にしようと思った。

私の思いつき企画に賛同してくれる会社への感謝、

毎回付き合ってくれるカメラマンの咲希さんへの感謝、

それから雑誌を買ってくれる読者の方への感謝、

たまにコメントを寄せてくれる方へはもっと感謝。


仕事とはいえ、好きなことをさせてもらっているのだから、みんなに感謝しなくちゃ。

きっとそういう感謝の気持ちが積み重なって、日本全国にある仏像は、

数百年、物によって千年以上も姿を保っている。

感謝って大事、人と仏像を千年つないだキーワードが、感謝ってことね。


それもこれも、不動明王から学んだこと。

私ひとりで生み出したものなんかじゃないんだ。

なにより、私は不動明王へ感謝しなくちゃいけないな。



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