小説「狂い咲き」8話

狂い咲き




ケンが撮っていたのは、自然の狂気だった。

誤った方向に振れた時の人の狂気は醜いものだけど、

自然の狂気は「狂喜」で、普段にはない光景が生み出される。

それが美しく思えるのは何故か。

感情をストレートに出せる存在への嫉妬、羨望の眼差し。


近頃、写真に収めたいと思うのは、そんな自然の狂気ばかりになっていた。

冷静な氷結、欲望のように燃え上がる炎。

急成長する緑の草木とか、ギラギラとした満月。





僕自身は何も語れない、でも自然は雄弁に語ってくれる。

自然だって言葉を発するわけじゃないけど、カメラを通せばその意思を画像に収めることができる。

そうだ、カメラは、被写体の心を読み取る。


僕もいつかは本音を語れるかな。

自然の狂気を撮り続けていると、心根を伝えようとする姿が美しくて、

美しくて、僕はその美しさに圧倒され、嫉妬し、憧れを抱いている。

何も変なことなんてない、乱れていても心を伝えようとする姿勢って、

なんて美しいのだろう。

氷塊のように、炎上のように、狂おしい表現の裏にある美を、僕はカメラを通して世界に追っている。


昔は春の淡い気持ちが好きだったけど、今では物足りなさを感じている。

所詮、人と人はいつか突然に縁の切れる、儚い関係。

だったら、つながっている一瞬に、悔いを残さず狂い咲こう。





鋭利な日本刀のように、二度とない機会を決死でぶつけ合う、そんなものが毎日に欲しい。

カメラマンつながりで、桜と紅葉が同時に命を燃やす

こんな貴重な景色を紹介してもらい、今日ここを訪れて、ますますそう思った。


一期一会とはこのことか。

つながっているのは今の一瞬しかないのだから、明日のことは考えず、

今日を精一杯に生きる、そのことの大事さにたどりついた気持ちがしている。



四季が突然、ケンの前に立ちはだかる。

驚くケンにお構いなしに、必死の表情で、四季が自分の存在を訴えかける。


ケン、あなたにやっと再会できた。

私、あなたがずっと好きだったの、あなたと一緒にいたいのよ。

頭のおかしいオンナと思われるかもしれないけど、

昼間はあなたの傍で手をつないで、夜はあなたに抱かれて毎日を過ごしたいの。

伝えなくてずっと後悔していたから、こんな再会の奇跡、もう、全部あなたに伝えたくて。





これこそ本当の突然。

突然すぎて、ケンは言葉を失うかと思った。

今まで好んで写真に撮ってきたもののように、

目の前には、いびつだけど、本気の色に染まった、自然の感情があった。


美しい、それはたまらなく美しい。

しかも、自分もずっと忘れられなかった思い出の人が、目の前にいてくれる。

見て見ぬ振りをしてきた僕の後悔を見透かすように、

逆に大切な人からそんな狂喜を打ち明けられるとは。


僕はどうなる?

まさか自分が狂い咲きの主役になるとは思っていなかったけど、

「その時」はいつでも突然に訪れるもの。


一瞬間が空いて、ケンは四季のことを心から受け入れた。

四季、ありがとう。

いきなりでびっくりしたけど、そんなに勇気を出して言ってくれたら、もう僕も黙っていられない。


僕は四季のことが好き。

ずっと、四季が好きでした、ずっと、四季に逢いたかった。

これから一緒にいよう。

四季のこと、なかなか離さないよ。





小原地区の四季桜は、春に咲き、秋にも紅葉に合わせたかのように満開の桜となる。


紅葉と桜が同じ秋の一点に交わる瞬間が、世の中には存在する。

そこに破壊と救済の力を借りて、奇跡を掴み取った人たちもいる。

人も、自然の狂い咲きのようになる瞬間があってよいのだから。


四季桜が春と秋に二度咲きすることの詳しい原因は、現在も謎のまま。

時として人が狂喜に包まれるように、紅葉に美を重ねようと、

理屈なしに花を咲かせるのが、四季桜なのかもしれない。

例えそれが、季節感をなくした狂い桜と呼ばれるにしても。


素直な気持ちを、ちゃんと伝えれば、幸せは訪れる。

幸せの機会を失いたくなければ、時には腕を怒りに震わすことも必要なのでしょう。


不動明王、四季桜に狂い咲く。



「狂い咲き」 完



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