小説「未来都市計画」2話

未来の町




土地・人間。

まぁこれが私たちの初歩的であり最も強い未来計画でありました。

それを進歩させつづけ、守り続けてゆくにはやはり三権というものが不可欠でした。


しかしこの土地では本土のように他国との争いは存在しません。

信じられないくらいに個人の常識とモラルに自治を任せることができるのです。

新世界を見据えれば見据えるほど原始的なモラルが大切な、重要なものとなっていきました。

最低限の小さな政府が街をつくり、人のために施設を整え、

次第に大きくなる経済の流れをコントロールします。

法に至っては実にシンプルなものです、基本的には一文です。

「他人に迷惑をかけずモラルを尊び自分のやりたいことをしなさい」





ここでは自由の与えられる程度が大きいのです。

すると当然、義務が、自分自身のことについての責任が同時に重く課せられます。

責任なしには自由なし──モラルを尊ぶ人々にとってこれ程の幸せがありましょうか。


人と人との問題には、もちろん裁くことが必要となります。

人生経験豊かな、人間味をふんだんに持ち合わせた裁く側が

時には痛みも伴う決断をとり、モラルの下に公平な裁きを──との理念で裁きます。

裁判さえも個々のモラルにたよるところが実に多いのです。


そして、ここでは犯罪というものを蔑む傾向が見られます。

加えて特別な夜に暴力本能を刺激する狂気の影響もありません。

皆、心の豊かさを持つようになりました。

大都市でありながら小さな喜びをつくることが美徳とされ、偶然でも隣にいた人と楽しみを共にするのです。

幸せだけに包まれてもここでは悪くない――ありえないことではないのです。

誰もが努力したぶんだけの栄光を手にできるよう、政府は動きたいのです。


犯罪を巻き起こす基本的な構造――「貧しさ」を無くすことは重要な政府の課題です。

誰にも職を──心の豊かさを持つためにも欠かせぬ、大切な社会の基礎です。

心の豊かさを求めるには金のこととはあまり関係ありませんが、

経済的に貧しければその分だけ心を求めづらくなってしまいますから。


──そして犯罪は影をひそめる。

犯罪を生むのは人間の闇の欲望、皆それをどこかで解消しながら、

消化しながら街の雰囲気をつくりあげるのに努力を惜しみません。

犯罪などは心の貧しい者のすること

――ここではそんなことを自然に感じながら人が歩くのです。

心を求める人間こそ美しい。


もちろんこの素晴らしい雰囲気を守るため軍隊・警察は存在します。

しかしあまり表舞台には出てきません。

本土と遠く離れたここでは外国との蛇足の繰り返しである

不条理な軍事費拡大競争などないですし、警察以前に個人のモラルが問われます。

それ程に個人の自治が生きるのに大きな割合を占めています。

この新時代だからこそ人をまとめることができるのは個人のモラルによって――でしょう。


人をまとめる側としての形の理想を自分の任務と心得、

打算なき仕事により自分の心の豊かさを切に願う人々により政府は形成され、

その鋼の意志は複雑な問題にも妥協を通し、和解を生みます。

無意味なことに金・力を注ぐのを慎み、人のため何ができるのかを考えていてくれている

――と知っている人々は彼らに喝采と栄光を一層贈ります。

新時代だからこそ個人のモラルがより求められる。

時代が進めば進むだけ単純な、プラスなことが大切となる。

言わば人として当たり前なことが美しい──それこそが新時代なのです。

新時代は「心の豊かさ」がテーマなのです。


開拓当時は本土が経済的に支援してくれましたよ。

最初は科学調査か何かの目的だったのでしょう。

しかし、ここに足跡を踏み落とした者は皆一時の調査だけではなく

将来の展望を見ました、そして自ら住み着く気になりました。

それ程この地には人をひきつける魅力があります。


私のように本土から見るこの地の輝きの美しさに魅せられ、

そのロマンティックな灯かりを愛し、住み着くことを決意した者も多いですね。

最も、この地は本土から見る以上に素晴らしいところです。


まず神秘的に天が輝きます。

夜ともなれば星に息がかかりそうな程近い。

宇宙は近所のようなものです。

本土から眺める月に近いサイズで幾つもの星が輝きます。

本土でいう星か月か──無数の小さな輝きか、ひとつの大きな灯かり、どちらを愛すか

──もロマンティックですが、ここでは月並みの大きさの星が幾つも夜空に輝き、

それはもう言葉を絶して神秘でロマンティック──。

そう、本土の灯かりも遠くから眺められますしね。

その一点に惚れて住み着いた者が大半です。





彼らは新しい星座を数え、伝説を創造し、ロマンティックな芸術に生きます。

そのためにここに街をつくるのに熱心でした。

他のある者は自分自身や生活の全てを変えるため移ってきたり、

本土の生活が貧しかった人が移ってきたり、特別な理由を持っていた者など、

いずれにしろ初めの頃移ってくる者は

僻地といわれたこの地の暮らしに耐えなければなりませんでした。

本土の灯かりとこの地の灯かりを前後に見ながら渡ってくるのです、

その長い時間の間に思うことはひとしおではなかったはずです。

そんな人々が集まりひとつの新世界をつくりあげようとしたのです。

理想のもとに、希望のもとに。それが新時代の幕開けでした。


当時この地に来るのは調査団か物好きな旅人たちだけでした。

誰も開拓しようとは考えていませんでしたね。

それだけ本土でのイメージが不毛の土地、という一点に固まっていたのです。

言われてみればこの私が最初の開拓移民者ということになりますね。


え、何故私がこんな土地に住み着く気になったか、ですって?

ひとつは先述べた通りこの地の美しさに魅せられたからですよ。

まぁ、それはこの地に住み着いてからの理由ですね。

きっかけはあくまで偶然なことでした。

私自身でもまさかそのまま住み着くことになるとは思いもしませんでしたよ。


そうですね、まぁ、当時私は情熱を傾ける対象を失っていました。

私は私のなかで絶対な心の寄りどころだった愛する女性を失っていました。

理由は聞かないでくださいね、一人になってからの生活は哀しみだけが見え、

やがてその痛みは仕事への情熱を欠けさせることになり、

全てを闇に閉ざすこととなったのです。

その当時は最低な人間にまで堕ちていました。

しかし私の野性は、情熱の瞳は消えることはなかったのです。

自らを投げ捨てる日々のなかで逆に心の炎は一層つのるばかりでした。

そんな時に目の前に与えられた真っ白な紙、

自分がゼロから築きあげるか否かの賭け、

偶然とはいえ与えられたそのラスト・チャンスを逃がす気にはどうしてもなれなかったのです。

もう一度ゼロからの始まりに私は情熱を燃やしました。

その結果、偶然来たこの地に私は残ることを決意し、

後に仲間を集め未来都市計画をつくりあげることになったのです。

あれも今思えば偶然ではなく必然、としか考えられませんね。

まぁ、笑い話にはなるので私がここに来る直接のきっかけとなったその偶然の出来事をお話しましょう。


ある時、尾紋という田舎町に仕事で行くこととなり、

唯一の交通手段である阿山11号という夜行列車をつかまえようとしたのですよ。

ツキがなかったのでしょう、普段は時間に正確な私が偶然が重なり、

駅へ駆け込んだ時には出発時間ギリギリか、数分遅れているかになっていました。

出発がだいぶ遅い時間ということもあり、他に列車もないだろう、

と勝手に決めつけてまさに出発しようとしていた

2両編成だけの夜行列車にとびのったのです、他のホームに列車はなかったですから。

時計を見ると同時に列車は走り出し、内に入るとやはり人が全然いません。

重装備の旅人たちがほんの1グループだけ、

彼らからなるべく離れた一番前の席を選び私は座りました。

気分的にどうしても会話など交わす気になれなかったのです。

──その時はまだふさいでいましたからね。


車掌が切符の点検になかなか来ません。

1時間ほど資料整理をしていましたがまだ来ません。

着くのは明日の昼の予定です、疲れていた私は座席を倒し、コンタクトを取り外し寝てしまいました。

待ちきれませんでしたからね。


ぐっすり眠った記憶があります。私はどこででも熟睡できるタイプなのです。

もう昼近い頃かな、とどこかで意識しながら目を覚まし、

鏡のあるトイレに顔を洗い、コンタクトをつけるため入り、

頭はまだ回転しないまでも目だけを覚まして出ると、丁度初めて車掌と顔を合わせました。

「切符を拝見」と今さら言う車掌に「ずいぶん遅いですね」とからかうと、

「どうせ止まる駅はありませんから」と車掌は言うのです。


眠ってる頭から記憶をひきだすと確か幾つか止まる駅があった気がします。

まぁ、気だるさにそのまま流しながら切符がポケットに入っている上着を取りに席に戻ると、

朝らしかぬ車内の薄暗さにやっと気付きました。

驚いてカーテンを開け窓の外を見るとなんとレールもない空間を列車が走っています、飛んでいます。





さっきの車掌の言葉もあり明らかに何か妙な列車に乗ってしまった、と驚愕し、

後ろについてきた車掌に「なんだこの列車は、どこへ行くのだ」と叫び尋ねました。

「どこへ、って――」すると車掌はあたかもそれが当たり前、といった事務的な声色で答えたのです。


「──月へ行くのですよ、お客さん」



「未来都市計画」 完



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