小説「忍術シングルトラック」

シングルトラック ノースフェイス




「よいか、佐助。追手の忍びも早足、ここはノースフェイスのシングルトラックで駆け抜けるぞ」

「おう、才蔵。今は命のやり取りは無用。一息にRUNするのみ」


猿飛佐助と霧隠才蔵は、走りながら、声を出すことなく、忍びの読唇術で会話をした。


主君の真田幸村から命を受け、九度山から京の要人へと密書を届ける道中、

徳川家康が放った見張りに見つかってしまった二人、

ここは何としても通り抜けなくてはいけなかった。







山伏姿に変装している二人は、人気のある集落まで走ると、大声を上げて村人たちを集めた。

いきなり佐助と才蔵が金銭を撒き始めると、村人たちは混乱しながら銭を拾い合う。


その騒ぎの一瞬を縫って、二人は素早くノースフェイスのシングルトラックに履き替えた。

この忍術唯一の弱点は、履き替える時に生じるわずかな隙。

人目があり、混乱甚だしい場では、追手の忍びもさすがに手が出せない。







再び駆け始めた佐助と才蔵は、山越えのトレイルロードを選ぶ。

普通の忍びは
シングルトラックほどの優れたシューズを持っているわけではない。


足底のグリップ力、足全体へのフィット感、その丈夫さと軽さ。

シングルトラックの驚くべき能力は、

真田幸村配下の忍びだけが持っている、
特殊能力を秘めた忍具であった。


猿飛佐助や霧隠才蔵のような厳しい鍛錬を積んだ忍びには、

ただでさえ常人では考えられないほどの脚力があるのに、

そこに加えての
ノースフェイスのシングルトラック


追手も、一定の能力を買われて徳川方に雇われた忍びとはいえ、

通常のランニングシューズしか持ち合せていない以上、双方の脚力には大きな差が出ていた。







トレイルラン専門のシューズだから、シングルトラックは、どんな山道さえも厭わずに、

佐助と才蔵の足を確かに前へと進めてゆく。

凹凸のあるトレイルだって構わず、多少の坂道とて平地の如し。


とりわけ厳しいトレイルロードにかかると、

普通のランニングシューズしか履いていない追手の忍びたちは

足元を滑らせ、スピードを落とし、余分に体力を消費してしまう。


みるみるうちに佐助と才蔵の姿はトレイルの先へ先へと消えて行き、

もはや追手の忍びたちは、追跡を断念せざるを得ない状況に







数刻の後、忍び刀も手裏剣も使うことなく追手の忍びを振り切った佐助と才蔵は、

シングルトラックを脱いでいた。


紫に輝くノースフェイスのシングルトラック、忍具にしては派手すぎるカラー。

京の町中で履いていては目立ち過ぎるが故に、忍びであることが周囲に分かってしまう。


密書の届け先はもう間近、どうやら
真田幸村の使命を果たすことができたようだ

少しだけ微笑んで、しかし油断することなく、佐助と才蔵は歩を進めていく。



トレイルランのスピードキング、
何者も寄せ付けない忍びの遁術

恐るべき忍術、ノースフェイスのシングルトラック。



トップページ小説トップ








Copyright (C) 2011 - Ken Box. All Rights Reserved.