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小説「代理愛人」1話

投稿日:2005年4月1日 更新日:




――掲示板にそう書き込みしたら、たくさん返事が来た。

最初に会ったのは、やりたいだけの男。

「昔付き合っていたさやかってコが忘れられないかな~。

やっぱり失恋を忘れさせてくれるのは、新しい出会いだよ。会えない?」

「さやかを愛してくれるの?」

「もちろん!超~愛してあげる。俺、今でもさやかが好き。会おうよ。いっぱい愛してあげるし」

「――さやか?返事なくて心配だよ。会いたい。愛し合おう」

「愛してたから、もう一度さやかを抱きたいんだよ。お願い、さやかになって欲しい」

しばらく無視していても熱心にメールしてきたから、そいつを選んでやったのに、

会うとしつこいぐらいにわたしの名前なんか聞いてきたし、

強引にホテルに連れ込まれるのは、なんか求められているカンジで良かったけど、

結局イク時もそいつはわたしの名前を呼んだ。

「美夜子――」

あれだけ言っておいたのに。さやかの名前なんて全然出てこない。

こっちも全然「ケン」って呼べなかった。

大体、本名なんて使うわけないじゃない。

「美しい夜の女」なんて、キャバ嬢にでも付けたらいい名前だけどね。

そんな男に興味はないから、すぐに切った。やらせて損した。

それから男は慎重に見分けることにした。

次に会ったのはマジメ男。

メールでも律儀に「優」って呼んできたし、

会っても「優ちゃん」を連発されるのはそれっぽかったけど、

どうやらそれは実際に愛した女の名前じゃないみたい。

「――優ちゃ~ん。優ちゃんはホント、カワイイね~。

カワイイ優ちゃんをいつも僕だけが守っているよぉ~。

ずぅ~っと僕だけの優ちゃんだよ~。

優ちゃんのためなら何でもしてあげられる~。

優ちゃんをいっぱい飾っておきたいなぁ~。

優ちゃんはもうさみしがる必要ないからね~」

「優」はアニメの中のアイドルだった。

せっかく名前を連呼してくれる男が見つかったと思ったのに、いい笑い草。

ブ男だったけど、外見なんてどうでもいい。

現実の女を愛せない男なんて話にならないし、すぐに切った。

やらせる気にもならない。女を神に祭り上げないで。

空でも雲でも愛していればいいのよ、ああいうオタク男は。

次の男も勘違い野郎。

どうやら身体が目的じゃなくて、このわたしと恋愛をしようとしているみたい。

「歪んだ想いをお持ちなんですね。

俺でよければ叶えてあげるけど、君のことが心配だよ。

もっと普通の恋ができる女の子にしてあげたいな。

身体で愛し合うのもいいけどね。足りないものは俺が満たしてあげる。

ケンって呼んでくれていいよ」

「ケンは何て呼んでくれるの?」

「まつみ。とても好きだった人。いい、まつみ?」

大人過ぎる男。

会ったら会ったで、ホテルに誘いもせずに、こんなことを言う。

「俺もいくらかでも気持ちがなくちゃできないから、まずは話をしよう」

わたしの心を覗こうと、優しい会話でコミュニケーションを図ってくる。

でもわたしは、表面で適当に話を合わせているだけ。

心なんて、通わせられるわけないじゃない。

「オマケでもいいけど、次は恋愛対象の一人として君に会えないかな。

心がなくてセックスしてもきっと虚しいよ。

とか言って、本当は今すぐにでもホテルに誘いたいんだけどね~。

あとで後悔しそ~。ははは~」

別れ際、そう言って男は一人で笑った。

――このわたしと恋愛?

違う違う、そんなのじゃない。ホント笑っちゃう。

優しい心なんて求めていない。

説教じみたことは止めてよ。見当違いもいいところね。

わたしはそんな普通の女じゃないから。

優しい人だったのかもしれないけど、アイツ、カッコつけやがって。

善人ぶっても、最後はホテルに連れ込む勇気がないだけのくせに。

あんなのいらない。もう会うこともない男。

最悪。また失敗作だよ。

今求めているのは、わたしのことを昔に愛した女の代理として愛して欲しい、っていうことだけ。

狂おしいぐらいに、愛を注がれたい。

わたしには興味を持たないで。わたしはただの代理でいいの。

誰かが誰かを心から愛する気持ちの、熱い抜け殻を感じたい。

わたしの耳元で別の女の名前を、本当に愛した女の名前を叫んで、イって欲しい。

その女の名前を、わたしの身体の奥底まで注がれたい。

その愛憎を、その後悔を、その再会を、わたしの子宮に叩きつけられたい。

ただそれだけ。

目指す男はなかなか見つからない。ヘンなメールは山ほどくる。

だから、やりたいだけの男じゃ、お話にならない。

代理で愛してくれるなら別にやらせてあげてもいいけど、心の中に本物の愛はあるの?

それも激しい愛でなくちゃ。

わたしの身体が切り刻まれるぐらいの必死の想いなら、いつでもどこでも抱かれに行くのに。

物足りない男どもに失望しながらも、わたしはまた別の掲示板に書き込みを続ける。

流れてくる欲望の残骸を摘み上げては、ニオイを嗅いでみる。どれも偽物ばかり。

ある時メールを交わした一人の男。

随分と沢山の男とやりとりしたけど、この男こそ本物だと、わたしはすぐに直感した。

「有美香」と呼んで、誠実な文章を書いてくる。

「有美香。逢いたかったよ。ずっと待ってた。もう一度、あの日のように愛し合おう」

最初のメールからこんな調子。

おかしいでしょ?

「ケン。わたしもよ。また愛してくれるの?」

わたしもわたしで、やっぱりおかしいメールで試してみる。

「うん。有美香の名前を呼んでまた愛したい、ってずっと思ってた。

他の女と寝ても、有美香を抱いている姿ばかり想像していた。

心の中ではいつも有美香を呼んでいた。

有美香、やっぱり有美香しか愛せないって、ようやく気が付いた」

「ケン、ありがとう。わたしだってそう。

どんな男に抱かれていても、いつもあなただけ、ケンのことだけを想っていたんだから。

また愛して頂戴。いっぱい愛してよ、ケン」

「有美香、あぁ、有美香。昔と変わらずずっと愛しているよ。

今までの空白を取り戻そう。有美香ともう一度愛し合えるなんて。

愛したい、今すぐにでも愛したいよ、有美香――」

馬鹿な会話。でも、ちゃんと「お約束」を分かっている。

この男だろう。きっと間違いない。だからすぐに会うことにした。







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