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張遼 三国志小説「夏侯覇仲権」10話

投稿日:2003年3月15日 更新日:




関羽を出迎えた曹操は、敵陣を見渡すことができる丘に関羽を連れて登った。

まさに顔良軍と先鋒の夏侯惇軍が対峙しているところであった。

夏侯惇軍は善戦し、戦いは拮抗しているかのように見えたが、

ふと夏侯惇本陣から離れた場所で陣形が崩れた。

見ると、いつの間にかその前線へと顔良本人が移動していて、大剣を引っさげて斬り込んでいる。

その勢いに押され、夏侯惇軍は勢いを失った。

陣形が崩れ、四方に兵が散る。

顔良軍は第二陣の夏侯淵軍に突入していった。

その光景を見ていた曹操が思わず唸る。

「ううむ!冀州随一の勇があの顔良だ。あぁ、敵ながら見事な戦ぶりかな!」

横の関羽はどうやら薄笑いを浮かべながらそれを聞いている様子だった。

「関羽よ、あの顔良を甘く見てはならぬ。

さすがのそなたでも、そう易々とは手に負える相手ではないぞ。

徐晃ですら苦戦したほどの雄敵だ。

どうやって討ち取ればよいのか、正直わしですら良策が浮かばんのだ」

すると関羽は鼻で笑い飛ばしながら答えた。

「これは異なことを仰せになる。どうぞ我が青龍偃月刀にお任せくだされい。

董卓軍の華雄を討ち取ったときのように、たった一撃の下に顔良を仕留めてきましょうぞ」

曹操は思い出していた。

反董卓軍を旗揚げしたとき、敵の勇将華雄に随分と悩まされた。

当時全くの無名であったこの関羽が華雄を斬ってくれたことで、なんとか逆転することができた。

確かに、あの時と状況は今と似ていた。

曹操としても関羽が顔良と戦って負けるとは思っていない。

だが、簡単に討ち取れるとも思ってはいなかった。

ただ、顔良一人を防ぐことさえできれば、あとは策を巡らせて

顔良軍を打ち破ることも可能だろうぐらいに考えていた。

出陣の許可を得た関羽は、そのまま丘を下って夏侯淵の陣まで赤兎馬を走らせて行った。

その後姿を見て、曹操は脇の張遼に話しかける。

「見事な男よ。わしの挑発を広言で跳ね返しよった。

のう、張遼。関羽を出陣させた結果がどう転ぶかわしにも分からぬが、

関羽が本当の意味で我が軍に加わるきっかけになって欲しいものだな……」

張遼はその言葉を複雑な思いで聞いていた。

思えば自分が曹操の前に引き立てられたとき、

助命を願い出てくれたのは劉備の側にいた関羽であった。

張遼は呂布という君主に満足していたわけではなかった。

呂布の武に対しては無限の敬意を払っていたが、

張遼が求めていたのは己を活かしてくれる君主であった。

流れてゆく点と点のつながりで呂布を君主に迎えることになったが、

張遼の毎日は妥協と諦めの連続であった。

ここにいては己の人生が始まりもせず、また、終わらすこともできない。

それがはっきりしていた。

どうあがいたところで正当化は難しかったのである。

真人は真人を知る。

口にしたわけではなかったが、関羽はそれを分かっていたようだ。

関羽は張遼の信念を貫かせるために曹操へ助命を申し出た。

劉備ではなく、曹操にである。

根無し草の劉備よりも、広大な領土統治のため幅広い人材を必要としている曹操を関羽は推した。

真人の、真人に対する真心である。

そこには自軍の権益を優先させようとする意図はなかった。

あの時の関羽の心遣いを張遼は忘れていない。

この先関羽がどうなるにせよ、それが彼の信念に沿った道であって欲しい。

張遼はそう願っていた。

曹操がいくら関羽を慕おうとも、こればかりは人生の大きな渦の中で流れ、流されてゆくもの。

一個人の力では如何ともし難い。

ただ、願わくば関羽の今後が関羽の信義を曲げるものではないということである。

張遼には軽々しく口を挟むことができなかった。







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