ケンボックス

小説と写真を高品質で。

関羽と曹操 三国志小説「夏侯覇仲権」11話

投稿日:2003年3月15日 更新日:




だが、通行証を持たずに出発した関羽は、行く先々で通行を拒否される。

関羽はやむなく守将を斬った。

曹操に通行可否の伺いを立てさせる時間が惜しかったのである。

曹操は認めてくれたが、配下の将が快く思っていないことを関羽は知っていた。

抜け駆けの功を狙う連中に襲われる危険性があった。

ただでさえ二夫人を帯同することで足が鈍くなっている関羽にとって、

時間は一刻でも貴重であった。

強行突破をすること四関門。

関羽は最後の関門、平陰の船渡し場を前にしていた。

ここから船に乗り、黄河を渡ってしまえば、以北は袁紹の支配圏である。

守将の秦琪は勇猛なことで名の知れた部将ではあったが、

関羽と矛を交えるには力量に差があり過ぎた。

関羽は易々と秦琪を討ち取り、守兵を蹴散らした。

最後の五関門をも突破したのである。

船を奪い取り、いざ二夫人を北へ渡岸させようとしていたところに、

北岸から一艘の船がやってきた。

船頭にいたのは、劉備の部下の孫乾である。

孫乾は慌てて説明した。

既に劉備は冀州を抜け出し、今は遥か南の汝南にいるというのであった。

劉備は袁紹に将来性がないことを見抜いていた。

確かに幕僚には優秀な人物が多いが、いずれも勢力争いをしており、

常に仲間割れが生じているような状態であった。

そして、なによりも袁紹個人に決断力がなかった。

袁紹は凡将ではない。一州程度を統治させたら彼は有能な君主であろう。

だが、四州もの広大な領地を総括する才覚は彼にはなかった。

有能な部下に恵まれたことで袁紹は領地を拡大させ続けてきたが、

広がり過ぎてしまった領土と厚い人材層を束ねる広い統率力と決断力が袁紹には欠けていた。

関羽のことはなんとか不問に止めたが、

部下の讒言によっていつあらぬ疑いをかけられるか分からない。

危うんだ劉備は冀州からの脱出を謀った。

南の荊州で一大勢力を有している劉表と自分は同族であり、

自分ならば劉表を説得して曹操を攻めさせることができる、と献策したのである。

袁紹は劉備の言葉を信じた。

確かにそれが叶えば南の劉表と北の袁紹で有効な二面攻撃ができる。

快く承諾した袁紹は、劉備を荊州へと使いに出す。

劉備は南へと向かった。ただし、荊州にではなく汝南にである。

汝南には以前から連絡を取っていた黄巾賊残党の劉辟がいた。

彼の勢力を取り込んで、独立しようと謀ったのである。

劉備は不屈の魂で再起を誓う。

そして、道の途中で関羽が冀州に向かったことを知ると孫乾を急行させた。

汝南での結集という劉備の伝言は、こうして孫乾から関羽へと伝えられた。

関羽はすぐさま赤兎馬を南へと向けた。

だが、平陰を去ること間もなく、後ろから旋風を巻き上げて襲いかかってくる一軍があった。

関羽はその軍旗を見て顔色を変えた。夏侯惇である。軽視できない敵であった。

二夫人に孫乾を付けて先行させると、関羽は単騎立ち塞がる。

夏侯惇も単騎馬を進め、関羽と対峙した。

牙を見せんばかりに夏侯惇が吠える。

「――関羽!貴様は丞相の恩を忘れたのか!」

対して関羽は冷静であった。

「夏侯惇、お主ならばわしと曹公が交わした約束は知っておるだろう。

よいか、お主がわしを止めれば曹公の気持ちを無にすることになるのだぞ」

「それは知っておる!しかし、貴様は行く先々で我が軍の将を斬った。

あまつさえ、我が秦琪を斬り捨てたことは許せん!その罪は別だ!大人しく縛に付け!」

夏侯惇は臨戦態勢に入った。それを見て関羽も覚悟を決める。

夏侯惇を討ち取らない限りこの先へは進めない。そう悟ったのだ。

互いの武勇は承知済みである。

己の死を覚悟して戦わない以上、相手を討ち取れないことも分かっている。

龍は虎を睨み、虎は龍を睨む。

「――夏侯惇!貴様の目はこの偃月青龍刀が見えているのか?!

さっさと白馬に戻り、袁紹でも相手にしておれ!」

「貴様!顔良や文醜如き討ち取ったからといって調子に乗るな!!

曹操軍には貴様程度の者、無数におるわ!」

遂に龍虎の闘いが始まった。

夏侯惇の槍と、関羽の偃月青龍刀が激しく火花を散らしてぶつかり合う。

顔良をたったの一合で斬り捨てた偃月青龍刀が夏侯惇の左顔へと襲い掛かる。

死角と思われた左顔であるが、夏侯惇は素早く槍を繰り出して偃月青龍刀を払いのける。

すかさず、夏侯惇の槍が一閃した。

慌てて関羽は赤兎馬の背中へと身を伏せて槍先をかわす。

――この男、やはり只者ではない。関羽は心の中で唸っていた。

左目を失ったことで左からの攻撃が弱点となるはずが、

夏侯惇は素早く反応して、逆に槍を繰り出す余裕があった。

左目の代わりに第六感でも得たとでもいうのか。

子雲と仲権は後方からその壮絶な一騎撃ちを見つめていた。

あの白馬の闘いで英雄として曹操軍に奉り立てられた関羽に対して、

堂々と渡り合っている夏侯惇は、自分たちの家長である。

両雄の攻防は凄まじい激突音を周囲に撒き散らしつつ、数十合に及んだ。

二人には決定的な違いがあった。乗馬である。

名馬中の名馬である赤兎馬は、合を重ねるごとにますます鋭さを加えて関羽を運んだ。

夏侯惇の乗馬も名馬ではあるが、赤兎馬とは比較できない。

次第に夏侯惇の馬が疲れを見せ出してくる。

誰もが夏侯惇の不利を感じた時、彼方から一頭の騎馬が疾走してきた。

「夏侯惇!槍を控えよ!!関羽も馬を退けい!!」

それは張遼であった。二人の間に割り込むと、夏侯惇へ通行証を見せた。

「よいか、関羽が守将を斬ったことを聞いて丞相が発行された通行証だ。

丞相は何者も関羽を妨げてはならないと仰せになっておる。

ここは丞相の意向を尊重して軍を退いてくれ。頼む!」

「しかしだ!この男は我が秦琪を斬った!

秦琪は、蔡陽から是非にと言われて預かった部将だぞ!それを殺されて黙っていられるか!」

「それについては丞相から蔡将軍に直接話してもらうようにする!

頼む、この張遼が保証する!この場を立ち去ってくれい!」

そこまで言われては夏侯惇も槍を向けることができなくなった。

口惜しそうに関羽に一瞥をすると、そのまま軍を指揮して元来た道を走り去って行った。

張遼は関羽の行き先を詳しく詮索しなかった。

通行証を渡すと、素早く馬首を返して許都の方向へと戻って行った。

その後姿に向かい、いつまでも深々と頭を下げる関羽がいた。







Copyright© ケンボックス , 2019 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.