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黄巾賊 三国志小説「夏侯覇仲権」11話

投稿日:2003年3月15日 更新日:




平陰を走り去る夏侯惇軍の最尾から、二頭の騎馬が離脱したのに気が付いた者はいなかった。

子雲と仲権である。夏侯惇軍が見えなくなると二人はすぐに道を逆戻りした。

「――仲権。よいな、どこまでも追うぞ」

思いつめた表情。二人は真剣だった。

目的は関羽を追うことにあるらしい。一体何を考えているのだろう。

二人が同時にかかったとしても関羽には到底敵わない。

引き止めることも、阻止することもできない。

関羽の行き先など劉備の元しかないと分かっているのに、一体何が目的なのか。

二人は関羽が進んだであろう道を急いで追ったが、行方は掴めなかった。

そもそも、北上していた関羽がどうして黄河を越えず、進路を変えたのかが分からない。

劉備が汝南にいるとは知らない二人は、半日かけて西の道を進んだ。

道脇の村民に聞き込みを続けたが情報は掴めない。

その夜、宿場で一緒になった商人から関羽とおぼしき一行の話を聞くことができた。

商人は南東から移動してきたのだが、

日中すれ違った一行に赤顔長髯で赤い巨馬に乗る大男がいたと言う。

そんな人物は関羽しかない。

どうやら関羽は北へ行くのをやめて南へ向かったらしいと二人は思った。

早朝、日が昇る前から二人は馬を駆って南へ向かった。

行き交う人々に関羽の人相を聞きながら進むと、昼過ぎには関羽一行を見つけることができた。

二人は関羽に悟られないよう遠くから尾行することにした。

関羽は曹操の支配圏内ぎりぎりの道を選んで南下を続けた。

途中、関羽の前に何組もの賊が平伏してくるのを二人は目にした。

汝南近辺には未だに黄巾賊の残党が無数いるが、彼らに語り継がれている伝説がある。

それは黄巾賊討伐で抜群の功績を挙げた劉備三義兄弟のことである。

関羽が名乗らなくとも、赤面長髯の将が関羽であるということはこの辺りの民や賊は皆知っていた。

彼らは劉備三義兄弟を黄巾賊を討った憎い敵としてではなく、

義勇兵として立ち上がり大功を建てたということで英雄扱いしていたのだった。

劉備が汝南で挙兵しようとしたのも、その伝説を逆手に取ろうとしたからに他ならない。

そんな事情を子雲と仲権は知らない。

二人の目からすれば、関羽が事前工作をしていたのだとしか見えなかった。

だが関羽は降ってきた賊を護衛につけることなく進む。

それが不可解だった。

どうやら汝南方向へと関羽が向かおうとしていることに二人は気付いたが

汝南に何があるのかは見当が付かない。

平頂山という山の手前で宿を取った時、宿の主人が心配そうに話し掛けてきた。

なんでも平頂山は山賊の巣窟で、滅法強いがいるらしい。

山賊にひるむような二人ではないが、多勢には適わない。

関羽の出方を待つことにした。

その夜。大部屋で泊まっていた子雲と仲権に一人の男が話しかけてきた。

二人をこの土地の人間かと思ったのか、

平頂山にいる山賊のことや山を越えた先の様子を上手に聞き出そうとする。

仲権が申し訳なさそうに余所者であることを告げると、男はがっかりした様子を見せた。

そして、今度は一転して軽い口調で二人のことを聞いてきた。

子雲は黙って口を開かなかったが、人好きのする表情に思わず仲権が本音をこぼし出した。

ある野蛮人に連れ去られた大切な人を探している途中であること。

ある男の後をつけて行けば必ずその野蛮人と接触するか、もしくは手がかりを掴めるだろうこと。

家族には黙って二人だけで出てきたこと。

大切な人を取り返すまでは家に帰るつもりはないこと。

さすがに名前は明かさなかったが、仲権は抑えていた感情を一気に吐き出した。

話が進むにつれ、男はまるでそれが自分のことのように心配し始めた。

目に薄く涙を浮かべて、最後は同じ言葉をうわ言のように繰り返したのだった。

――そうだ、信じてさえいればいつかきっと逢える。

信じる心を忘れてはいけない。強く信じることで、それが叶う可能性が高まるのだ、と。







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