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蔡陽 三国志小説「夏侯覇仲権」11話

投稿日:2003年3月15日 更新日:




翌朝、男は宿の主人から色々聞いている途中で何を思ったのか慌てて宿を出て行った。

子雲と仲権は平頂山の裾野の高台に身を潜めて関羽を待った。

間もなく関羽の一行が通りかかるのが見えた。

すると、山頂の砦から山賊たちが恐ろしい勢いで下ってくるではないか。

山賊の先頭には立派な体格をした壮士がいる。

手に長い蛇矛を携え、虎髯を生やした巨漢が関羽に近付くと、

二人は大きな歓声を挙げて抱き合った。

子雲と仲権はその大袈裟な喜び方に首を傾げた。

大の男が、ましてや天下に名だたる関羽がこれほどの親愛ぶりを見せる相手といえば、

想像できる人物は少ない。

二人は顔を見合わせた。もしや、という予感がしたのだ。

「子雲!何だあの土煙は!ただの軍勢ではないぞ!」

その時、道の反対を仲権が指差した。

見れば、関羽がやってきた道の向こうから土煙を上げてやってくる騎馬軍がある。

その数、五千は下らない。

近付いてくると、その旗印が蔡陽のものであることが分かった。

「蔡陽将軍だけは、以前からやけに関羽に敵意をむき出しにしていたと聞く。

曹丞相の贔屓をいいことにして、調子に乗っていると言いふらしていたそうだ。

それにな、平陰で討たれた秦琪は蔡陽将軍の甥だ。

仲権、これは壮絶な殺し合いになることに違いないぞ」

緊迫の面持ちで子雲が言う。仲権もさすがに心配だった。

「そう聞いている。だが、いくら関羽でも五千の兵は相手にできないだろう。

どうすればいい、子雲?」

「俺にも分からん!おい、関羽が単騎で道に立ち塞がったぞ!

兵も展開させないし、何を考えているんだ?」

「本当だ!蔡陽将軍だって関羽の凄さは良く知っているはずだ。

ほら、蔡陽将軍は後陣にいる。

あれでは、いくら関羽でも主将を討ち取る得意の先制攻撃はできない」

二人がいる丘の上からは軍の展開が手に取るように分かった。

蔡陽本陣は速度を緩め、先陣の騎馬隊だけが関羽に突進した。

ふと、それまでじっとしていた関羽が急に赤兎馬を走り出させる。

蔡陽騎馬隊とは速度が違う。

飛ぶが如く駆け出した赤兎馬は、見る見るうちに敵軍に突入して行く。

すると、蔡陽先鋒隊はまるでそれが当たり前であるかのように赤兎馬に道を譲った。

あぁ、赤龍は見えない炎を吐いて敵軍を切り裂き、道なき道を進む。

そして、関羽がその速度のまま後陣を通り過ぎた時、蔡陽の首は胴体から離れていた。

顔良が斬られた時と全く同じ光景が繰り返されたのである。

上から見渡していた子雲と仲権にとっては正に目を疑う光景であった。

赤い人龍が蔡陽軍に飲み込まれたかと思いきや、赤の一点が蔡陽軍を通過し、核を破壊した。

中心を失った蔡陽軍は総崩れになったのである。

すると先程の大男が単騎で飛び出して蔡陽軍に襲いかかった。

関羽とその大男のたった二騎だけで、蔡陽軍は支離滅裂になった。

五千の兵が、関羽一人に逃げ惑う。また、大男の蛇矛の威力も凄まじかった。

小蝿を追いやるかのように振り払う蛇矛で、蔡陽軍の兵がばたばたと倒れてゆく。

二人の勢いは同じであったが、その性質が大きく違っていた。

関羽はそのまま龍の炎である。外部を炎に包み、内部をも燃やし尽くす。

片方の大男は黒い竜巻のようであった。蛇矛が叩き落された後は何も残らないのである。

「子雲!なんだ、あの二匹の龍は!蔡陽将軍の兵が吹き飛ばされるようではないか!」

「あぁ、これで間違いないな。仲権、あの大男こそが俺たちの探している男だ」

子雲が静かに言った。仲権も同感だった。

「――そう。あれが、張飛益徳。遂に見つけたぞ――」

関羽は一兵も失うこともなく五千の敵を退けた。

何事もなかったかのように二夫人の車を進ませ、山砦に収容した。

平頂山を占拠していた山賊はやはり張飛であった。

こうして思いがけず劉備三義兄弟のうち二人が揃ったのである。

子雲と仲権は平頂山を迂回して先の町へ向かった。

山砦の門を叩いたところで面会できるとは限らない。

山砦から二人が降りてくるのを待って直訴するつもりだった。

だが、数日経っても関羽と張飛は現れない。

二人は辛抱強く待ち続けた。遂に張飛を見つけた。

張飛がいるということは、この男にさらわれた玉思がここにいる、ということである。

二人は一刻も早く玉思を救い出したいという気持ちで昂ぶっていた。

その気持ちは出発したときと変わらない。

いや、むしろ時が経つにつれ高まっていた。

ひとつ変わったのが、張飛に対する印象である。

ただの荒くれ者だったはずが、蔡陽を蹴散らした戦いぶりを見て変化が生じていた。

張飛は腕力だけの猪武者、乱暴な性格の荒くれ者である。

世間ではそう伝えられてきたし、子雲と仲権もその印象しか持っていなかった。

だが、あの蔡陽軍の蹴散らし方は関羽にも劣らない勇姿なのである。

張飛もまた、人龍なのであった。







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