ケンボックス

小説と写真を高品質で。

関羽・張飛は義兄弟 三国志小説「夏侯覇仲権」12話

投稿日:2003年3月15日 更新日:




関羽と張飛が山砦に入って数日が経ったある日のことだった。

町の飯屋で昼食を取っていた子雲と仲権の前に、いつかの宿で一緒になった男が姿を見せた。

男は汝南へ行ってきた帰り道であるという。

藁にもすがる思いで、仲権は男に平頂山の張飛のことを知らないかと尋ねてみた。

張飛という名前を聞くと男の顔色が変わった。

怪しんだのか、男は饒舌な口を急に閉ざした。

この男は何かを知っている、と踏んだ子雲が思い切って全てを打ち明ける。

自分たちは夏侯家の一員であること、張飛にさらわれた家族を連れ戻すために旅に出ていること、

本当はすぐにでも山砦に行って張飛に掛け合いたいこと。

それを聞いた男は、穏やかな顔つきになって自分の名前を明かした。

男は劉備軍の孫乾であった。

二人の気持ちを聞いた孫乾は、丁度自分はこれから山砦に帰るところだから

一緒に来れば張飛に会わせてあげると誘ってくれた。二人は即座に頷いた。

――遂にこの時がきたぞ、張飛。玉思は俺たちが取り返す。

これが二人に共通した想いであった。

惇や淵にも相談せず、秘密裏に白馬を抜け出してきた。

仕事だって放棄してきた。あれから連絡もしていない。

きっと心配されているに違いないし、帰ったら酷く怒られるだろう。

とにかく、夏侯家の太陽である玉思と弟を奪った張飛が許せない。

関羽と張飛が揃ったあの山砦から玉思と弟を無事に取り戻せるとは

子雲も仲権も正直思っていなかった。

それでも二人は前に出る。命に代えてでも玉思たちを取り返してやるという思いがあった。

既に失われたものがあり、それ以外に子雲と仲権が失うものは

何ひとつとして存在しないのであった。

孫乾に伴われて山砦に入ると、そこでは荒々しい顔つきの男たちが調練をしている最中だった。

予想よりも兵の数が多い。三千人はいる。

そして、動きに調律がある。山賊というよりは立派な軍であった。

孫乾は砦の中心に建てられた大きな屋敷に入り、大広間に二人を案内した。

そこでは張飛と関羽が地図を広げて話し合いをしている最中だった。

「おう、孫乾。よく戻った。して、義兄上の居場所は掴めたか?」

張飛がそう問いかけると、孫乾は自慢気に胸を叩いて言った。

「この孫乾様の情報網を甘く見てもらっては困る!

あぁ、分かったぞ。劉備殿は既に劉辟殿の元に到着されておる。

ここからは目と鼻の先だ。用意が整い次第、すぐに合流しよう。

これで遂に劉備軍は再結成じゃ!」

それを聞いた張飛と関羽は顔を見合わせて歓声を上げた。

すぐさま関羽が席を離れ、二夫人の元へと報告に走る。

孫乾が座り、子雲と仲権にも席を勧めた。

「――ん?その者たちはどうした?山賊の子弟とも思えぬが」

張飛が子雲と仲権に視線を向けた途端、子雲が一歩前に出て、

張飛の目を睨み付けるようにして口を開いた。

「曹操の腹心夏侯惇の弟で夏侯恩子雲と申す。

また、ここにいるのは夏侯淵の長男で夏侯覇仲権である。

張飛殿とお見受けした。

聞くところ、我が甥と姪を無頼の輩から保護していただいたとのこと。

その恩義は、夏侯家として深謝するところである。

しかし、我らが来たからには両名を引き取らせて頂きたい」

子雲は一気にまくし立てた。

口調は滑らかではあったが言い方は強引さに満ちていて、

普段の冷静で要領の良い子雲らしくなかった。

仲権はそんな子雲の態度を危ういと思った。張飛を刺激してはならないと思い、

子雲とは逆の態度を取った。

深く頭を下げ、張飛の慈悲にすがろうとしたのだ。

女や財産は奪うものであった。誰かのために保護するなど、そんな考え方のほうがおかしいのだ。

張飛は虎髯をさすって二人の若者を見つめていた。

頭を深々と下げている少年と、自分に鋭い目を投げている少年。

曹操の親族であり、曹操軍を代表する将軍夏侯惇・夏侯淵の子弟だという。

張飛は迷った。







Copyright© ケンボックス , 2019 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.