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審栄 三国志小説「夏侯覇仲権」13話

投稿日:2003年3月15日 更新日:




翌朝未明、矢文で伝えた通りに審栄が動く。

遂に難攻不落鄴城の門は開かれたのである。

敵の進入を知った審配は兵を励まして応戦するが、所詮は多勢に無勢、敵うわけがない。

この戦いには曹操の嫡子曹丕が従軍していた。

先陣の張遼・徐晃に続いて曹丕も城内に突入する。

今はその曹丕を護衛する役を任ぜられていた子雲と仲権も続いた。

曹操軍の士気は高かった。

それまで審配の置かれた立場に若干の同情を感じていた兵も多かったが、

あの一幕が審配の印象を悪者一色に塗り替えた。

あの辛毘の哀れな姿が焼きついているのだ。

仲権は審配のあの行動が許せないでいる一人だった。

それにどうも最初から審配のことは好きではない。

「審配は膨大な私財を溜め込んでいるらしいぞ!僕はそれだけで許せないな。あいつは悪徳の士だよ。

何万何十万という民に貧しい暮らしをさせておいて、

必要以上の富を一握りの将が独占するべきではないと思う」

「あぁ、それはな」

子雲は調子を合わせてきた。

だが、彼は珍しく審配に肯定的で、同情的な人であった。

「でもさ、仲権。あの審配という男も可哀想だよな。主に逃げられて、一人で城を守っているんだよ。

別に袁尚なんかには義理立てしないでさっさと降ってしまうという方法もあったのにな」

「自業自得だよ、自業自得!あいつは自分一人が目立てばそれでいいんだよ!」

「まぁ、それは分かるさ。武人らしい心もあるんだなって言いたいだけさ。

なぁ、仲権。俺はあの男の意地を最期まで遂げさせてやりたい。そう思っている」

「あぁ、そうか。そうしたいならそうすればいい!」

仲権にも好きになれない奴がいる。本当に審配が嫌いなのだ。

「そうするよ。審配は俺が捕らえてみせる。いいか、功績を狙っているだけではないぞ。

最後を悟った審配は自害するだろう。

しかしだ、仲権。俺は審配を曹丞相に会わせてやりたいんだ。

辛毘殿のこともある、降伏はできないだろう。

だがな、審配は死ぬ前に曹丞相に会うべきだ!

袁紹や袁尚だけでいいのか?曹丞相という大河があるのを知ってから死なせてやりたい。

それが、武人として最高の餞ではないだろうか。俺はなんとしてもそうさせてあげたい」

しかし、そんな子雲の真剣な言葉も仲権にはどこ吹く風であった。

仲権には子雲の同情が理解できない。

被害者である辛毘よりも、加害者である審配の方が弁護されるなんてことはあってはいけないんだ。

そのことだけに仲権はこだわった。

(――あれから子雲は変わった)

審配のことを必死に正当化しようとする子雲の表情を見ながら仲権はそう思っていた。

あの日、平頂山を下った時から笑顔を見せることが少なくなった。

代わりに武芸に打ち込み、戦を好むようになった。

活躍してくれるのはいい。自分の励みにもなる。

だが、二人で一緒に過ごす時間も減ってきたのが辛い。

子供の頃からいつも一緒にいたから、一人でいても仲権には何をしてよいものか分からない。

あれ以来、自然と玉思のことを話題に上げないのが暗黙の了解になっていた。

子雲は幾人もの楽女や遊女たちと付き合い始めた。

もう成人したのだからそんなことに口を挟む立場ではないとは知っているのだが、

仲権は心配で堪らないのだ。

(子雲、約束は忘れていないか?審配のことを同情的なのも以前の君にしては変じゃないのか?)

口にはできない心の疑問。言い出したい。言い出せない。

ここしばらくこればかりだ。結局仲権は伝えることを躊躇したままだった。

――鄴城内は地獄のような光景であった。

餓死をした民の屍が積み上げられ、異臭を放っている。

生きる意志すら失ったかのような民が痩せ細った身体でうずくまっている。

烏や馬の骨、そして葉や根を食い尽くされた枯れ木が辺りに転がっている。

審配軍の大部分は武器を捨てて投降した。

わずかに抵抗する者も士気盛んな曹操軍の前では一方的に蹴散らされてゆく。

勝負は既についていた。

張遼軍の後ろから強引に前線に追いついてくる一騎がいる。

夏侯恩子雲であった。敵に戦意なしと見て取った夏侯恩は、

曹丕護衛の任務を仲権に任せて前線に単騎馬を飛ばした。

既に徐晃軍の兵が審配本陣に突入し、抵抗する護衛兵を討っていた。

単身乗り込んだ夏侯恩は降兵の胸倉を掴んで審配の居場所を問い質す。

刀身を右手にぶら下げ、邪魔する兵士を斬り捨てて、迷わず審配の元へと走った。

危ないからと制止する兵たちの声も振り切り、夏侯恩は屋敷の奥へと大胆に駆け抜けた。







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