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三国志小説「夏侯覇仲権」

投稿日:2003年3月15日 更新日:




中国の三国志の登場人物のひとり、夏侯覇仲権。

魏建国の功臣として有名な伯父・夏侯惇や父・夏侯淵の名声の陰に隠れて、

決して注目が集まることはなかった男。

伯父や父の死後、名門夏侯家の跡継ぎとして一時の武名を馳せるも、

魏が司馬懿に乗っ取られる中で居場所を失い、

敵国の蜀に亡命してしまうという運命を辿った不遇の将。

同じく無名の将・夏侯恩子雲。

三国志の大きな見せ場である長坂坡の戦いで、

蜀の猛将・趙雲の活躍をお膳立てするためだけに架空の部将として設定された男。

趙雲が名剣・青釭を敵将から奪う場面でその青釭の剣の持ち主として描かれ、

あえなく趙雲の一槍で討ち取られてしまった無様な役柄の将。

三国志の端役として末席を汚しただけの男たちであるが、

現実の彼らは果たして本当にそうであったのだろうか。

夏侯覇はどうして伯父や父の代からの宿敵である蜀に、投降しなくてはならなかったのか。

軍責を重んじること鉄の如しと魏兵たちから慕われ、

夏侯家の繁栄のために心血を注いだ男が

どうして人生の終わりにそれまでの生き様を反転させるような道を選んだのか。

また、魏の皇族であるのと同時に、

蜀にとっても皇族であるという数奇な運命は、彼にとってどういうものであったのだろうか。

青釭の剣は、魏建国の英雄・曹操が愛用していた天下の名剣、

倚天・青釭の二振りの内のひとつであった。

そんな宝剣をどうして夏侯恩が持っていたのか。

夏侯恩が青釭の剣を手に入れるまでには、何か大きな出来事があったのではないだろうか。

人がいればそこに物語がある。

夏侯覇と夏侯恩という男たちの生き様もまた、ひとつの価値ある物語であった。

今まで決して語られることなく、遠い時代に埋もれていた物語がここに蘇る。

人がいればそこに物語がある。

百人いれば百通りの、百年生きれば百年分の物語が存在する。

人だけではない。どんな木石にでも物語は生じている。

何かがそこにあればそこに物語があるのだ。

だが残念なことに、世界に蓄積された無限の物語のうち、

その面白さが後世に語られるのはほんの一握りでしかない。

世界に散りばめられた幾千もの物語は、天界に煌く星々である。

世に眠った物語は土竜の夢見る理想郷である。

あぁ、どんなにささやかな物語でも日陰のまま留めておくには勿体無い。

夏侯覇仲権という男がいた。夏侯恩子雲という男がいた。

二十世紀の時を経て現代に名が残るという奇遇に恵まれたこの二人だが、

それは彼らの本当の意思とは反したところで歴史に残ってしまったという不幸な例であろう。

この物語は、夏侯覇と夏侯恩という二人の男が生涯秘め続けてきた真情を描いたものである。

三国志や三国演義には描かれることがなかった、また別の物語である。

彼ら二人の物語が現代に生きて放たれることを願いながら、ここに物語を始めるとしよう。







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