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不動明王 小説「狂い咲き」1話

投稿日:2010年4月1日 更新日:




素直な気持ちを、ちゃんと伝えることができれば、世の中はもっと幸せに溢れる。

想いを伝えられないことが、誰もの幸せを抑え込んでいる。

そのことを、私はある仏像を通して教えてもらう機会に恵まれた。

私は今、日本の美を専門に取材する「ケンボックス」という雑誌社で、仏像特集を組んでいる。

仏像っていうと、なんか年季の入った趣味って思われるけど、いいえ、こんなにお洒落な趣味ってないよ。

仏像の中でも、私が注目しているのは不動明王ね、不動明王。

破壊と救済という対極を合わせ持った、なんとも華やかで眩しい存在。

今日はカメラマンを連れて、京都の東寺に来ている。

東寺には有名な不動明王がいるから、その魅力を伝えるためなら、私は日本中どんなお寺でも回りましょう。

ねぇ、ちょっと不動明王のことを語らせてもらってもいい?

あなたもきっと見たことがある。

不動明王って、すごく外見が怖いやつ。

周りに睨みを利かせて、口からは牙が飛び出し、手には刀剣を持ち、

背中で怒りの炎が燃え上がっている。

見るからに怖い人、始終怒っている頑固オヤジみたい。

しかも怒り方がプリプリ、って感じじゃなくて、ガーっていう風に、心の底から本気で怒っているの。

子供が見たら泣いちゃうんじゃないかってぐらい、本当に怖いのが不動明王。

何が羨ましいって、不動明王は自分の感情に子供のように素直なの。

でもね、ちょっと調べれば当たり前かも。

だって、不動明王って、童子の体型をした仏像なんだもん。

寸胴の体型はまるっきりおこちゃまでね、

悟りをひらいた仏様ってイメージじゃないから、なんか愛着を感じる。

一見、怒りまくっているおじさんかと思ったのに、子供なんだから、

自分の感情に素直っていうか、純粋なのも自然だよね。

インパクトが強い仏像だなぁ、って思って更に調べていくと、面白いことが続々。

怒りと破壊のイメージを前面に出しているくせに、不動明王は人々を救済する役割を持った仏様だった。

大日如来という、誰もがははぁ~って手を合わせたくなる

ソフトタッチ系のありがたい仏様がおられる。

世の中には、そんな仏様さえ無視してしまう、

聞き分けのない人たちもいるけど、そういうマイナーな人たちを、

強引に説得して仏の道に感化させてしまおうと、

大日如来が送り込んだハードなメッセンジャーが、不動明王。

怖い?押し売りみたい?

でもね、仏教の考え方では、不動明王がいるからこそ、

あらゆる人々が救済されることができる、と言われているの。

いつまでも自分の常識だけに固執して、大海に目を開かない人っているでしょう。

不動明王の目的は、そういう視野の狭い人たちさえも救済すること。

ただね、やり方がちょっと強引で、強面と炎と剣で脅して、

最初は無理矢理、そして次第に仏の道に引きずり込んでしまう。

結果、その人がきっと幸福になれるんだから、

まぁ、不動明王は必要悪っていうか、世の中には欠かせない存在なのかもしれない。

仏様たちの、ソフトとハードの使い分けってことね。

自ら心を開かない人たちに、世の中の大半の人たちが良いと思う、

おおよそ善良なものを強引に教え込む。

うん、それは分かるよ、私の周囲にも無理矢理でも引っ張り込みたい臆病者っているから。

分からないのは、不動明王がどうしてそんな辛い憎まれ役を買って出ているか、ってこと。

何かそこに私を魅せるものがあって、不動明王の存在が、私の胸をドキドキさせていた。







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