与謝野晶子の短歌が、まるで今のアダルトポルノのようだと、君は思ったことがあるだろう。
歌集みだれ髪にある「乳ぶさおさえ 神秘のとばり そとけりぬ ここなる花の 紅ぞ濃き」。
乳房を押さえながら、性愛というMysteryの扉をそっと開いた与謝野晶子は、
そこにある濃すぎる色に驚き、喜び、身体も心もその性愛に焦がれていく。
そんな場面が容易に想像できる与謝野晶子のこの短歌を読めば、君の気持ちも分かるよ。
情熱の歌人と呼ばれた与謝野晶子、そのまま晶子の短歌は愛情とエロスの塊だ。
強烈な個性を成しているのは愛情の深さ、表現の自由さ、執拗なまでの自信。
夫・与謝野鉄幹との恋事に生涯を捧げ、性愛がほとばしった結果である短歌で生計を立て、
12人もの子供を与謝野鉄幹との間に作り、生涯数えきれないぐらい、夫婦で各地を旅する。
与謝野晶子の生活のバランスはどうなっているのだ。
12人もの子供の母ともなれば、生活は子育てに明け暮れて当然なのに、
時代の奇才というべき短歌の極地までたどり着き、文壇での地位を築く。
鉄幹との洋航、止まらない子作り、源氏物語の現代語訳、関東大震災。
晶子ほど芸の道を突き進んだ人は珍しい。
くどいが、12人も子供がいる母として生きながら、
情熱の歌人としての与謝野晶子を忘れなかったことが、
晶子の歌人としてのこだわりと才能を差し示しているように思えて仕方がない。
根っからの芸術人、性愛の中で己の感情表現を突き詰めた人、
それが情熱の歌人・与謝野晶子だって、僕はこの感動を君に伝えたい。
明治の時代に「乳ぶさ」なんて言葉を
うら若い女性が短歌として世に出してしまう、
それって現代で言うフルヌードぐらい勇気のあることだって、
君が思っていることも最もだ。
だから情熱の歌人という代名詞がつくぐらい、
激しいエロスで短歌の境地を拓いたのが与謝野晶子だって。