酔っ払いの仲介も大変よ。
今夜はひとり酒に浸る気分でいたのに、 目の前で二人の男が言い争いを始めやがった。
御徒町の飲み屋、もちろん狭い店に決まってるからイヤでも聞こえてくる。
「いいよな、オマエは。未来の車だから、今はどんな夢を語っても責められないし」
「いいよな、おまえは。過去の車だから、1寸も進化しなくても見世物になれるし」
やめろやぃ、酒がまずくやる。
まぁまぁこのオレが話を聞いてやると、二人のテーブルに割り入る。
オレはフーテンのトラっていうもんだ、ちっとは話が分かる男だから。
「聞いてくださいよ、未来の車は自由過ぎるんです。
実現性とかコストとかを度外視して、 自分が叶えたいこと、
欲しい機能ばっかり、自分にはあるって嘘吹くんです」
そう主張する年長者の方は、オールドファッションだが、円熟した余裕を漂わせている。
「いやいや、聞いてくださいよ。過去の車は不動過ぎるんです。
前に進まなくちゃ仕事にならないのに、後ろのことばっかり気にしている。
本当にそれでも走る車ですかね」
そう嘲る若めの方は、前衛的ないでたちだが、海のものとも山のものとも掴めない様。
「未来の車は、無責任だ。答えがないからって、それっぽく飾るだけ。ずるい」
「過去の車は、無責任だ。いつまでも同じ展示物でお客を呼べるのか。ずるい」
同じ車博物館に勤めているという二人。
未来コーナーと、過去コーナーに所属している関係上、利害はもろに対立している。
「オマエはいいよなぁ」「おまえはいいよなぁ」を繰り返し、 酒の力を借りてか、互いにむせび泣く。
しけた面をするな。
あんたらの言い分もそれぞれ分かるけどよ、どちらも贅沢な話じゃねぇか。
両極端な個性をぶつけ合って喧嘩なんざ、誰にできることじゃない。
「未来の車には、もっと地に足をつけた運転をして欲しい、遠い夢ばかり見ず」
「過去の車には、もっと明日に役立つ歴史を語って欲しい、遠い夢ばかり見ず」
また始めやがった、もう手がつけられねぇ。
いつだって一人旅のオレには言い争いをする相手すらいないってのに、 コイツらときたら。